カテゴリー別アーカイブ: オーディオ

ネットワークオーディオの光LAN接続について

 最近、ネットワークオーディオで光LANを使用することが、流行っているようです。それで、在る方から、「マルチモード光ファイバ(MMF)と、シングルモード光ファイバ(SMF)、どちらが、音が良い?」とのご質問を受けました。どうやら、オーディオ雑誌に、シングルモードの方が、音が良い的なことが書いてあったそうです。

 たしかに、光の伝搬モードが単一になるシングルモードの方が、信号の伝搬が良く、伝送パルスの波形もきれいかと思いますが、あくまで、これは、イーサネットLANのレイヤ1(物理層)の話。TCP/IPを用いたネットワークオーディオの場合、LANケーブルや光ファイバで伝送した0と1のデータを、そのままAD変換して、アナログに戻すわけではありません。ネットワークオーディオプレーヤーでは、受信したイーサネットフレーム(パケット)から、IPパケットを取り出し、さらにそれからTCPパケットを取り出し、そのペイロードである音声データをバッファメモリに蓄積します。後は、ネットワークオーディオプレーヤーが一定の周期で音声データを読み出し、DAコンバータに入れることにより、アナログに変換されます。そのため、光ファイバの物理的な信号の波形の乱れが、直接的な音質の変化に現れることは、無いと考えられます。

 と言っても、理屈道理にいかない面があるのも、オーディオの面白いところです。ちなみに、当方、ネットワークオーディオは過去にやっていましたが、光接続は試したことがありません。マルチモードとシングルモードの比較も興味深いところではあります。やってみたら、何かの違いがあるかもしれません。

 なお、シングルモードの光ファイバを使う場合の注意点として、ある程度の長さが無いと、シングルモードの光ファイバでもマルチモードの伝搬が残るので、シングルモードの利点が生かせない点です。これは、シングルモードファイバでも、光の入り口近くでは、マルチモードの伝搬モードが存在するからです。ケーブルの端からの距離が長くなるにつれて、マルチモードの伝搬モードが減衰して徐々に消滅し、結果的にシングルモードだけになるわけで、ケーブルが短いと、シングルモードを用いても、マルチモードの伝搬が残る可能性も考えられます。そのため、0.5mとかの短いケーブルで、接続する場合は注意が必要です。このあたり、「ケーブルは短い方が良い」という、(アナログ)オーディオの常識とは異なりますので、注意すべき点かと考えます(使用するケーブルの特性を確認する必要がありそうです)。

あと、光LANの使用時の注意事項です

 光LANを使うときは、電源が入っている状態で、決してSCなどの光コネクタを覗かないでください。光のイーサネットLANで使っている波長は、赤外線で、肉眼ではみえません。光ってなくて、正解です。直視すると、目に大きなダメージを与える可能性があります(最悪、長期の障害や失明など)。文章で説明するより、下の絵を見て頂いた方が、わかりやすいので、貼っておきます。(昔に書いたオーム社の雑誌記事の連載用に、イラストレータに描いていただいた絵の、使いまわしです。)

光コネクタ注意事項  
覗いたらダメ!
光イーサネットLANのコネクタを覗いては危険!

 知らないと、以外と、やってしまうので、十分にご注意いただき、危険のないようにしてください。(特に、長距離用のメディアコンバータの場合は、光の送出パワーが強い場合があるので、注意が必要です)。

追伸 (ネットワークオーディオ)なぜ、普通のカテゴリ5EのLANケーブルを推奨しているのか?

記事を公開後、いろいろな意見を頂きました。その中には、「オーディオ的には、はやり、カテゴリ7などのシールドケーブルを使うべきだ」とのご意見もありました。その中には、アナログ領域の話と、デジタル領域を混同されている方や、TCP/IPのデータ伝送とUDP/IPのデータ伝送を混同されている方もおられました。

例えば、「LANケーブル中でのノイズ等により、1と0のビットが化けると、デジタル伝送であっても、ノイズになるはずだ。だから、ノイズに強いSTP(シールド付のLANケーブル)を使用するべきだ」との、意見もありました。たしかに、UDP/IPで伝送するVoIP(IP電話)では、イーサネットLAN(OSIのレイヤ1及びレイヤ2)のレベルでビットエラーが発生すると、LANのフレーム(パケット)そのものがFCSチェックにてエラーとなり、NICで捨てられ、1フレーム分のロスが発生し、ノイズまたは、無音になる場合があります。しかし、これは、IP電話やTV会議システムなどの音声デジタル伝送の話であって、通常のPCオーディオでは、DLNA(Digital Living Network Alliance)を使っており、音楽データの再生にはTCP/IPを使っている実装がほとんどだと思います。TCP(OSIのレイヤ4)は、伝送エラーが発生すると、自動的に再送し、ビットパーフェクトなデータ伝送を行ないます。これは、LAN(レイヤ1,2)やIP(レイヤ3)において、エラーが発生しても、自動的にエラーを修正することを意味します。また、受信したデータは、バッファメモリに蓄えられ、圧縮していないWAVデータの場合は、使用している音声符号化方式(コーディング)のサンプリング周波数に合致する一定周期で、データを呼び出し、DA変換されます。バッファに溜まっているデータを読み込みますので、多少のLAN(レイヤ1,2)やIP(レイヤ3)においてエラーが発生しても、すぐさまノイズや無音などの不具合はでないはずです。但し、TCPでのエラー訂正が間に合わないほど、LANやIPでの伝送にエラーが連発すると、データ伝送が間に合わずバッファのデータが枯渇してしまい、その結果不具合が出る場合があります。(特に2.4GHz帯の無線LANの場合、電波が混雑しやすいので、この現象が発生しやすいです。)言い換えると、バッファのデータが枯渇せずに、バッファに一定量以上のデータ溜まっている場合、データを読み込みが安定し、定周期でDA変換できます。そのため、デジタル領域では、ビットパーフェクトな伝送になり、ノイズ等の発生は無いと考えます。

STPの問題点
有線のLANの場合、シールド無しの普通のLANケーブル(UTP)を使うと、パルストランスにより、絶縁しますので、ノイズの伝搬はすくないものと考えられます。しかし、シールド付のSTPを使うと、シールド線を介して、ルータ、L2スイッチ、NAS等などのネットワーク機器のGNDと、ネットワークオーディオプレーヤーのGNDが繋がることになり、ネットワーク機器のノイズを、オーディオプレーヤー側で拾ってしまい、アナログ領域で影響が出る可能性があります。STPケーブルは、両端でGNDを取って、はじめて有効なシールド効果を発揮しますが、片端だけGNDを取り、もう一方はGNDを取らない場合、アンテナの働きをすることがあり、シールドラインから、外来ノイズを拾う可能性があります。注意して頂きたいのは、現在市販されている家庭用のブロードバンドルータや無線ルータは、ほとんどがSTPに未対応である点です。これは、雷害時に、ルータからPCや他の機器への影響を下げるためだと、思います。なお、STP対応、未対応は、ルータのLANの口の周りが、樹脂ならSTP未対応、LANの口が金属ならSTP対応です。) STP未対応のルータに、ネットワークオーディオプレーヤーからSTPケーブルで接続すると、前述したように、正しいGND接続とならず、ノイズをもらう可能性あります。また、ルータが無線LANのアクセスポイント機能を持つ場合、無線の回路からのノイズを、STPケーブルが拾うことなり、それが、ネットワークオーディオプレーヤーに回り込み、アナログ領域でのノイズなる可能性が考えられます。これは、日経NETWORK誌※の実験記事でも書いた状況と、同じ状況となります。 ならば、STPケーブルとLANアイソレータの組み合わせなら!と言う意見も、耳にしますが、筆者は、LANアイソレータを使ったことがありませんので、何とも言えません。もしかすると、ノイズが減るのかもしれませんが、私には、わかりません。

以前にも書きましたが、ネットワークオーディオでトラブルが出ている方は 高価なLANアイソレータや高価なケーブルを使う前に、すべてのLANケーブルを普通のシールド無しのLANケーブルに変えて、またルータとネットワークオーディオプレーヤーの間に100BASE-TX対応の普通のL2スイッチ(スイッチイングHUB)を入れて、ネットワーク機器として正しい状態に戻してみることをお勧めします。(もちろんIPの設定は正しい状態で)
オーディオとしての、チューニングは、その後のお楽しみとして。

※日経ネットワーク 2013年8月号 試せば理解が進む ネットワークなんでも実験室 ネットワークオーディオに雑音が混じる原因を突き止めろhttp://ec.nikkeibp.co.jp/item/backno/NN0160.html

概要:カテゴリ7のSTPケーブルをJJコネクタ(延長用コネクタ)でシールド無しのLANケーブルとつないで、不適切なSTPケーブルの使い方を行うと、無線LAN機器のノイズを拾って、アナログ領域でのノイズが音として聞こえる発生することを、実験で確かめた。
youtube

なぜ、普通のカテゴリ5EのLANケーブルを推奨しているのか?

前回のネットワークオーディオのトラブルに関する投稿について、
「なぜ、普通のカテゴリ5Eを推奨しているのか?」「その根拠は?」
とのご質問を受けました

ネットワークオーディオというよりも、通信ネットワークの観点から考えると、現在主流の10BASE-T/100BASE-TX/1000BASE-Tを使う場合、カテゴリ5Eケーブルで十分で、カテゴリ6以上を使う必要がありません。ましてはカテゴリ7として市販されているRJ45を使ったLANケーブルは、カテゴリ7の規格を満たしていません。また、市販のカテゴリ6以上のケーブルも、その規格を満たしていないものが多く販売されているのが実状です。
昨年、雑誌記事の企画で、市販のLANケーブルが規格に合っているかを、プロ用のLANケーブルテスターを使って調べる機会がありました。

カテゴリ5E~7? ケーブルのテスト
カテゴリ5E~7?
ケーブルのテスト

この記事の執筆のため、
米国FLUKE社DTX-1800をお借りして、パソコン店で市販しているLANケーブルが、該当するカテゴリに準拠しているかをテストしました。(パッチコードテスト)

結果は、カテゴリ5Eは、多くのメーカの製品でOKでましたが、残念ながら、カテゴリ6、カテゴリ6Aは、大手メーカを含めほとんどの製品がNGでした。私が測定した市販ケーブルの内、合格したのは1社のみでした。

米国FLUKE社DTX-1800で市販のカテゴリ6ケーブルをテスト
米国FLUKE社DTX-1800で市販のカテゴリ6ケーブルをテスト

なお、市販のカテゴリ7?ケーブルは、そもそもカテゴリ7がRJ45を使う規格ではないので、「規格に合っているか?」の以前の問題であり、試験もできません。当然ながら、FLUKE社DTX-1800もテストに対応していません。ちなみに、下位のカテゴリで調べたところ、カテゴリ6Aはおろか、カテゴリ6でもNGとなりました。あまりにも、結果が酷いので、製品不良の可能性もあるかと思い、もう全く同じケーブルを購入して試験しましたが、同じ結果でした。あまりにも残念なのですが、このような製品が、1mのケーブルで定価が2000円弱で販売されています。

要は、表記の規格を満たしていない可能性が高い、だけど、高価なカテゴリ6以上のケーブルを使うよりは、下位グレードであるが、その規格を満たしているカテゴリ5Eのほうが、通信ネットワークの観点から言うと、必要十分で、安心して使えるかと考えます。

なお、前回も書きましたが、ネットワークオーディオのトラブルは、LANケーブルやIPアドレスの設定不具合によるものが多いかと思います。ネットワークオーディオを正常に機能させるには、「オーディオ」以前に、通信ネットワークを正常に機能させる必要があります。そのためには、まずは高価なLAN ケーブルではなく、シールドがない普通のカテゴリ5EのUTPケーブル用い、IPアドレスの割振り(設置するネットワーク環境に合わせたアドレスの設定)を行うなど、通信ネットワークとして基本的なことを、確認して頂けたらと思います。

ネットワークオーディオのトラブルについて

昨年、日経ネットワーク誌に、ネットワークオーディオのノイズ混入実験の記事※を書いてから、ネットワークオーディオのトラブルに関するお問い合わせが増えてきました。

※日経ネットワーク 2013年8月号
試せば理解が進む ネットワークなんでも実験室
ネットワークオーディオに雑音が混じる原因を突き止めろ
http://ec.nikkeibp.co.jp/item/backno/NN0160.html

 

良くあるのは
(1)NASとオーディオプレーヤーがつながらない
(2)音が途切れる
(3)音にノイズが混じる
(4)IPアドレスがらみ?のトラブル
です。

案件によって異なりますが、
多くの場合は、LANケーブルの不具合や、ケーブルの接続間違い、ネットワーク機器
(ルータ、NAS、NWオーディオプレーヤ、スイッチングハブ)の設定間違いによるIPアドレスの割り当ての不具合が、原因のようです。

 

アドバイス

ネットワークオーディオのトラブルに対するアドバイスですが、下記の基本的な事項を守っていただけると、不具合が解消することが多いようです。(すべてのトラブル事例に当てはまるわけではありません)

・ネットワークの中核にスイッチングハブ(L2スイッチ)を配置して、
そこに集線する。(NWオーディオプレーヤー、NAS、
ブロードバンドルータ等をつなぐ)

・ブロードバンドルータをLANに接続して、常に動作させる。
  ブロードバンドルータが内蔵する、DHCPサーバを常に、ネットワークに接続しておきます。

・固定IPを使わない。DHCPサーバを使う(自動設定に任せる)
ネットワークやPCの知識に自信があり、IPアドレスの構成設計が
できる場合を除き、 IPアドレスは自動設定(DHCP)を使う設定に
したほうが良いでしょう。
また、DHCPサーバーを接続せずに、DLNA/UPnP機器が有する AutoIP 機能によるIPアドレス自動割り当て機能を使った場合でも、NASとオーディオプレーヤーの接続ができる場合もありますが、
インターネット上のサーバとつながらない等のトラブルが出 やすいので、DHCPサーバを接続してください。
・LANケーブルは、シールドが無い普通のカテゴリ5Eを使う。
シールド付LANケーブル(俗にSTPと呼ばれているもの)は、使い方
が難しく、ネットワークのプロでも、使いこなしに困る代物です。
特に、STPに未対応の機器にSTPケーブルをつなぐと、ノイズ混入
等のトラブルの原因になる場合もあります。まずは、シールドなし
LANケーブル(UTP)で、接続をしてください。
・LANケーブルのアクセサリはすべて外す
すべてのイーサネットLANを使った機器は、始めからパルス
トランスでアイソレートされていますので、安心してください。
・無線LANを使って接続しない。
無線LANは、他の無線LANの電波と干渉して、転送レートが落ちた
り、接続が切れたりする場合もあり、 不安定になりがちです。
特に、データ量の多い、ハイレゾ音源には不向きです。
・ルータは1台にする。
無線LANルータを追加後、IPアドレスの配布がおかしくなる場合
があります。これは、DHCPサーバ機能が複数になるため、IP
アドレスの配布が混乱するためです。すでに、ルータがある環境
では、追加する無線LANルータのルータ機能を切って使用する
る必要があります。

とにかく、オーディオ機器であるまえに、
通信機器として安定して動作させる必要があります。
そのためには、通信機器として、ごく普通に、ごく当たり前に接続して、動作させることが大事です。音質とかは、その後で、チューニングしてみてください。